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[1041] iPS細胞Q&A 

京都大学iPS細胞研究所 高橋 淳 先生に質問しました
 ●取材・質問 アダムトム、sophia

Q1

 iPS細胞とはどのような細胞ですか?

 iPS細胞は、英語の「induced pluripotent stem cells」からつけられた名前で、日本語では「人工多能性幹細胞」とも呼ばれます。
 ヒトやマウスでは、卵子と精子が合体した1つの細胞(受精卵)から心臓、脳、骨などができて体全体を作り上げます。このように、1つの細胞からどんな臓器の細胞にもなり得る性質を「多能性」といい、そういう性質をもった細胞のことを「多能性幹細胞」と呼びます。
 これまでは、多能性幹細胞はES細胞しかありませんでした。しかし、ES細胞は受精卵の一部を取り出して作るので、受精卵を使わずに体の細胞から多能性幹細胞を作る方法が模索されてきました。この流れのなかで、2006年に世界で初めて京都大学の山中伸弥博士が、マウスの皮膚の細胞に4つの遺伝子を入れることでこの多能性幹細胞を作ることに成功しました。

Q2

 iPS細胞はなぜ難病、とりわけパーキンソン病治療に期待されているのですか?

 欧米では1980年代の終わりからパーキンソン病に対する胎児細胞移植が数百例行われており、すでに細胞移植が体の動きをよくするということが明らかになっています。しかし、胎児の数には限りがありいつでもどこでもできるものではありません。また、最近では移植後に体が勝手に動くという副作用も報告されています。iPS細胞は培養で無限に増やすことができるので、効率的に大量のドパミン神経を作ることができれば、このような胎児細胞移植の欠点を解決できると期待されています。また自分のiPS細胞から作ったドパミン神経を使えば、移植しても拒絶されないので免疫抑制剤を飲む必要がありません。

Q3

 iPS細胞は、その治療上リスクはありませんか?

 どんな治療にもリスクはあり、iPS細胞を用いた移植治療でも例外ではありません。特に移植された細胞がどんどん増えて腫瘍になることが問題です。iPS細胞からドパミン神経を作って脳内に移植しますが、移植する細胞の中にどんどん増える細胞が混じっているとそれらが脳の中で腫瘍になって手足の麻痺などを引き起こします。ただ、そういう細胞が混じらないようにするための研究が進んでいますし、万が一そのようなことが起こっても放射線治療(ガンマナイフ)や摘出手術が可能です。

Q4

 Q3まででお伺いしましたが、未来の世代に対して問題が及ぶことはありませんか?
 報道ですと何か制限が加わった治療法があるようにお聞きしましたが。

 細胞移植治療を受けても子供に影響がでることはありません。また、治療対象は子供を産む年代を過ぎた方になると思われます。

Q5

 一般的に使用されるまで、どれくらい期間は必要ですか?
 またその手順についてわかったら教えてください。

 すでにヒトiPS細胞からドパミン神経ができることは分かっています。現在、動物実験で移植の効果と安全性を検証している段階です。また、臨床で使うためには質の高い(たとえば感染を起こさないなど)iPS細胞を作らなければなりません。これらの研究でいい結果が得られたら、倫理委員会や国の審査会などでの審議と承認を経て、試験的に臨床治療を開始します。それにはあと4〜6年かかると思われます。試験的な臨床治療で安全であること、効果があること、が確認されれば一般的な治療として認められますが、それには最初の臨床治療開始からさらに5〜10年かかると思われます。

Q6

 Q5の障害になることとして現状考えられることはなんですか?

 細胞移植の有効性については胎児細胞移植で確認されており、ヒトES細胞を用いたカニクイザルモデルへの移植でも明らかになっています。おそらくヒトiPS細胞でも、少なくとも同様の効果が期待できると思われます。あとは安全性、特に腫瘍の問題についてどこまで検証するかが問題です。治療のリスクを完全にゼロにすることはできません。しかし、効果と比較して納得できる程度以下にする必要があります。これから、それを証明するための実験データを積み上げる必要があります。

Q7

 もし医学的に効果が認められた場合に、パーキンソン病の治療法は大きく変わりますか?
 現在一般的には薬物療法、外科療法(DBS等)が主ですが、これらはどうなりますか?

 まず薬物療法から治療が開始される点は変わりません。病気の進行に伴って薬物で症状をコントロールすることが難しくなったときに今はDBSしか選択肢がありませんが、iPS細胞を用いた移植治療も選択肢に加わります。移植細胞は自分でドパミンを作ると同時に、L-ドーパからドパミンを作る働きもするので、薬(L-ドーパ)が効きやすくなるという効果が期待できます。つまり、細胞移植が加わることにより、治療の選択肢が増える、薬が効きやすくなる、と考えられます。

Q8

 以前ES細胞が話題になりましたが、これとは異なりますか?

 どちらも多能性幹細胞であるという点では同じで、ES細胞から作ったドパミン神経もiPS細胞から作ったドパミン神経も神経細胞としての働きにおいて違いはないと思われます。ただし、Q1で述べたように、ES細胞は受精卵を使って作るのに対し、iPS細胞は受精卵を使わずに皮膚や血液から作るという点が大きく違います。また、ES細胞は他人の細胞ですが、iPS細胞は自分の細胞からつくることができます。自分の細胞を移植した場合、免疫反応による拒絶がなく、他人の病気が感染する可能性もありません。ただし、自分の細胞を自分に移植する場合(自家移植といいます)、患者さんごとに細胞を作って事前の検査をする必要があるので、手間と費用がより多くかかります。
 また患者さんから作った細胞が正常に働くかどうかもよく検証しなければなりません。

Q9

 iPS細胞治療が認められた場合、全国どこの病院でも同様の治療が可能ですか?

まず、最初の細胞移植治療が行われるのは、iPS細胞の樹立施設をもち、ドパミン神経を作って移植する技術を持っている京都大学医学部附属病院になると思われます。細胞移植が一般的な治療になった場合は、二通りのケースが考えられます。まずは、自分の細胞からiPS細胞を作って自分に移植する場合(自家移植)。この場合は、iPS細胞の樹立から移植まですべてを一施設で行う必要があるので、それらの設備や技術をもった病院(京大病院など)に限られます。次に、あらかじめ健康な人からたくさんのドパミン神経細胞を作って保存しておき、それを全国の施設に配って移植する場合(他家移植)。この場合は細胞移植の技術さえあればいいので、(まだ断定的なことは言えませんが)基本的な脳外科手術が行える病院であれば移植治療を受けることができます。

Q10

 Q9の場合に難病指定(特定疾患)から外されることは考えられますか?
 また仮に外された場合、治療をすぐに受けられる患者と受けられない患者との間に不平等が起きませんか?

 iPS細胞による治療が可能になったからといって特定疾患から外されるとは考えにくいですが、現時点では分かりません。

Q11

 Q7でたとえば現在DBSを受けた患者はメーカーが機器開発を停止することは考えられますか?
 その場合、対象患者はどうすればよいのでしょうか?

 iPS治療が可能になったからといってDBS治療がなくなるとは思えません。iPS細胞治療を行っても効果が十分でないのでDBS治療も追加する、あるいはその逆のケースも考えられます。

Q12

 iPS細胞開発は京都大学が特許を取得していますか?
 また海外の大学で類似した研究(盗用?)した手術が行われているようですが、日本の他大学・研究機関・医薬品メーカーの動きについてわかったら教えてください?

 京都大学はiPS細胞の製造方法に関する特許を持っています。ただし、これは細胞移植治療すべてをカバーしているわけではありません。皮膚や血液の細胞からiPS細胞を作り、さらにドパミン神経を作って移植を行うまでには数多くの工程があり、そのすべてに特許が関係してくる可能性があります。したがって、世界中の研究機関や企業が様々な特許を押さえようとしのぎを削っている状況です。

Q13

 このiPS細胞治療が確立すれば、パーキンソン病は完治が見込めますか?

細胞移植治療は少なくなったドパミン神経を外から補おうというもので、病気の進行そのものを止めるわけではありません。細胞移植を行うことによって薬が効きやすくなる、薬の量が減るということは期待できます。究極的な目標は薬が必要なくなる状況ですが、そこまでいけるかどうかはある程度治療を行ってみないと分かりません。

Q14

 iPS細胞治療のお値段はおいくら程度でしょうか?

最初に大学で行う試験的な治療は研究費で行いますので、原則として患者負担はありません。その後治療の効果が認められれば保険適応の検討に入り、その中で治療費が決まってきます。まだ治療法が定まっていないので、治療費が幾らになるかはまだ分かりません。

Q15

   iPS細胞が作るドーパミンの量を予測することは可能でしょうか?

 細胞を移植する前には、その細胞がどれだけの量のドパミンを産生できるかを測定します。

Q16

 2.iPS細胞でパーキンソン病の進行を止められないということであれば完治は無理と判断して良いのでしょうか?

 「完治」の定義によりますが、「パーキンソン病の進行を止めること」ということであれば、細胞移植の目的はそこではありません。あくまでも少なくなったドパミン神経細胞を補充することが目的です。

Q17

 iPS細胞がドーパミン神経をつくり、ドーパミンが過剰に産生される可能性はありませんか?そうなった場合にジスキネジアが出っぱなしになる可能性があるのではないでしょうか? 一旦移植したらもうそれを中止することは不可能でしょうね?

 そうなると今度はドーパミンを減らす方向に働く薬が必要になるのではないでしょうか? ドパミン神経は過剰なドパミンをもう一度取り込んだり、それを自分の中にため込んだりすることができます。そうやって、ドパミンが過剰になったり足らなくなったりしないように調節しています。ですので、ある程度の範囲内であれば、ドパミンが多すぎて支障がでることはありません。ただ、それでもコントロールしきれないくらいドパミン神経が生着すればドパミン過剰によるジスキネジアが生じるかもしれませんが、これまでの胎児細胞移植や動物実験では、生着するドパミンはまだまだ足りないくらいです。

Q18

 体内のドーパミンの量は1日のうちで例えば睡眠中はドーパミンのレベルが低くなっていると思うのですが、iPS細胞を移植した場合でもこのような1日のドーパミンの変化というのはあるのでしょうか?

 これは実際に移植をして測定してみなければ分かりません。ただし、3でも述べたように体の方でドパミン量を調節できますので、必要量に応じた調節がなされると思います。

Q19

  iPS細胞の移植方法として今考えられているのはどのような方法でしょうか? 脳内移植?脳室内?

 脳内移植です。

Q20

 iPS細胞の移植が可能になったとして、移植に年齢制限とかその他の制限がでそうですか?

 この点はこれから検討するところです。断定的なことは言えませんが、最初はある程度高齢あるいは重症の方から始めて、様子を見ながらより若いあるいは症状の軽い方に移行していくものと思われます。

●高橋先生のコメント● この分野は変化(あるいは進歩)がものすごく早いので、あくまでも現時点での見解です。

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