2004.09.07up
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[1018] パーキンソン病類似の疾患

パーキンソン病、パーキンソン病様疾患、パーキンソンープラス、非定型パーキンソン病、
パーキンソン症候群、パーキンソニズムについて
National Parkinson Foundationより
 患者からみれば同じようにみえる病気でも医師にはその違いがはっきりしているとき、その違いを伝えるために医師が使った用語によって患者や家族、介護者などが混乱してしまうことがあります。

用語についての解説
パーキンソン病(PD)
 多くの場合次の4つの症状が特徴の何年にも亘ってゆっくり進行する病気である。
 ・硬直、固縮
 ・静止時振戦
 ・動作緩慢
 ・バランス障害を伴う歩行障害
 多くの場合これらの症状はレボドーパやドーパミンアゴニストに反応する。(例外もある)
 死後の病理検査で脳内の黒質と呼ばれる領域に特有の変化がみられる。

パーキンソン病プラス(PD-Plus)
病気の進行の過程において一時期PDに良く似た症状を呈する疾患群をいう。
つまり、PDプラスの症状とPDの症状のいくつかは似通っている。
PDプラスはPDでは見られない他の症状もある。
それゆえPDプラスと呼ばれる。
死後に病理検査を行うとPDとPDプラスでは違いが認められ、またPDプラスに含まれる病気同士でも違いがある。
PDプラスはメネシットやドーパミンアゴニストにあまり反応しない。
進行していく過程で一時期PDプラスがPDと間違えられたり、PDがPDプラスと間違えられたりすることがある。
よくみられるPDプラスは以下のものである。

進行性核上性麻痺(Progressive Supranuclear Palsy=PSP)

PD患者100人に対してPSP5人の割合である。
早期に重度のバランス障害を呈する。
眼球運動障害がみられる。
原因は不明。

多系統萎縮症(Multiple System Atrophy=MSA)

MSAには3つの亜形がある。
Shy Drager 症候群=自律神経系の障害を含む
線条体黒質変性症=PDに似ているがレボドーパにもアゴニストにも反応しない。
オリーブ橋小脳萎縮症=早期の重度のバランス障害が特徴的である。
PD患者100人に対しMSA5人の割合。
MSAも原因は不明である。

大脳基底核変性症(Corticobasilar Degeneration=CBD)

PSPに似ている。
PSPが両側同時に始まるのに対し、CBDは最初は片側から始まることもある。
固縮が主な障害である。眼球運動は障害されることもされないこともある。
PD患者100人に対しCBD1人の割合。
CBDも原因は不明である。

パーキンソン症候群、パーキンソニズム、非定型パーキンソン病
これらはしばしばPDプラスと同じ意味で使われる。
また、時には、どちらかといえばPDプラスよりもPDに似ているがPDではない患者を表現する際にもちいられる。
一酸化炭素やマンガンによる頭部障害のせいで起こったパーキンソン症状はパーキンソン症候群と呼ばれる。
パーキンソン症候群とパーキンソニズムは混乱を招きやすい言葉だが使われ続けている。

パーキンソン病様疾患(以下PD様と略す)

Dr.LiebermanはすべてのPDプラス、パーキンソン症候群またはパーキンソニズム、PDではないものでPD類似のものをすべて含めてパーキンソン病様疾患という言い方をしている。

以下のものも含めている。
 ・本態性振戦(一般の人にはPDと混同されることがよくある)
 ・Wilson病(銅代謝の異常でおき、若年ではPDに似ていることがある)
 ・ジストニア(筋肉の緊張の変化。PDの症状のひとつであるがPDとは別におきることもある)
 ・Restless Legs Syndrome(PDに伴っておきることもあるが、たいていはPDとは別におきる)


PDとPD様の違いを以下に説明する。

★病理所見の違い


PDは脳の黒質とよばれる部位のドーパミン細胞の消失によっておきる。

これらの細胞は脳の線条体とよばれる部位に突起をのばしている。線条体は尾状核と被核という2つの部分から成る。PDでは、PD様疾患とは違って、線条体に始まった細胞は失われてもいないし傷害を受けてもいない。しかし、黒質にある細胞とその神経突起は失われている。PDでは黒質の細胞の神経突起は尾状核よりも被核でつよく失われている。PD様では尾状核と被核で同じ程度に神経突起が失われている。

上のような変化は死後の検査でみつかるものである。臨床検査でみつかるものではない。SPECTやPETを使うと線条体の生化学的変化を測定することができ、黒質のドーパミン細胞の消失を忠実に映しだすことができる。いろいろなアイソトープを単独または組み合わせて使うことによってSPECTとPETで生きているうちにPDかPD様かを調べることができるようになりつつある。しかし、PDかPD様かを見分けるためのいろいろなアイソトープを使うのに必要な専門的知識はまだ広くいきわたってはいない。

PDでは死後の検査はで黒質のドーパミン細胞が消失し、ほとんどの死にかけている細胞の細胞質内にマーカー(目印)が現れる。顕微鏡で見ると丸い小体で細胞のほとんどを埋めるくらいにみえ、レビー小体とよばれる。レビー小体がどのように作られているか、細胞の死のサインなのか修復のサインなのか、レビー小体の構成成分についてはまだよくわかっていない。
科学が進歩しこれらの疑問が解ければPDの解明へと繋がる道が開けることになるであろう。

PD様ではなくPDであると診断するためにはドーパミン細胞の少なくとも60%が失われ、その多くの細胞にレビー小体がなければいけない。
PD様では60%あるいはそれ以上のドーパミン細胞が失われているが、その死にかけている細胞にはレビー小体はない。細胞がPDとは違った過程で死に至っているかのようにみえる。PD様ではふつうドーパミン細胞が多く失われているせいでメネシットに反応しにくい、もしくはもし反応したにしてもそれほど顕著ではないのではないかと考えられている。

PDではPD用と違って線条体の細胞は正常である。線条体の細胞が正常なので、その細胞にあるドーパミン受容体も正常である。だからアゴニスト(受容体上でドーパミンのように働く薬剤)に反応するのである。
PD様のいくつかの疾患では淡蒼球の細胞が損傷されたり死んだりしている。線条体の細胞が淡蒼球へ神経突起をのばしている。PD様では線条体と淡蒼球の細胞がやられているため、アゴニストにあまり反応しないのである。

生体では臨床検査で線条体や淡蒼球の変化を見つけることはできない。しかし、メネシットやアゴニストに対する反応によって見分けることができる。だからPDかPD様かの診断がはっきりしないときにはメネシットかアゴニストを試験的に投与してみることもある。この試験的投与は医師と患者双方が反応があることを(または反応がないということを)確信するまで続けられる。

★進行速度、薬に対する反応の違い


PDはゆっくり始まり、ゆっくり進行する。このことはドーパミン細胞がゆっくりと失われていくことの現れである。PD様ではPDより始まりもその後の進行も早い。症状が出てから(あとで振り返ってみてはじめて分かることもあるが)診断がつくまでにPDでは2−4年、PD様では1−2年である。診断がついてから治療が必要になるまでPDでは1−2年、PD様ではそれよりも短い。

ドーパミンアゴニスト(ビシフロール、ペルマックス、レキップ)で治療を始めた場合約80%の患者は効果がみられる。アゴニストに反応しなかった患者のなかにははじめはPDと診断されたが後にPD様と診断される患者もいる。アゴニストで治療を開始した患者の30%はその後4年くらいアゴニストだけで(メネシットを用いずに)維持することが可能である。そのような患者はジスキネジアをおこすようにはなりにくい。アゴニストで治療した患者のうち70%は4年以内にメネシットを必要とするようになる。もし最初からメネシットで治療を始めると約80%の患者に効果があるが、その約半数がジスキネジアを伴うようになる。
すこししか薬に反応しないかまたは全く反応しない患者のなかにははじめはPDと診断されたが後にPD様と診断される患者がいて、そのような患者はジスキネジアを起こさない。

ドーパミンアゴニストやメネシットに中程度ないし著明に反応すればふつうにはPDである。またジスキネジアをおこすようになるのもPDである。
ドーパミンアゴニストやメネシットに少しないし全く反応しないのはふつうはPD様である(必ずしもすべての場合ではないが)。
症状が出始めてから診断がつくまでが1-2年と比較的早いのはPD様である。70歳以上の人にはこれは当てはまらず、PDであっても進行が早いのが普通である。これはPDによるドーパミン細胞の損失にさらに加齢による損失が加わるためである。高齢の人ではドーパミン細胞の数に余裕が少ないためPDが早く進行するのである。

★主な症状の違い


レボドーパやドーパミンアゴニストができる以前、SPECTやPETが使われる以前、診察室での検査に基づいてPDとPD様の区別をしていたが、それは現在ほど正確なものではなかった。
PDは4つの主な症状に基づいて診断される。診断時に必ずしもすべての患者が4つの症状すべてをもっているわけではない。またPDの経過中に4つの症状すべてが現れるわけでもない。
4つの症状はPDとPD様で以下のような差がある。

*固縮=患者は肩や腰のコリや痛みとして感じることがある。
 固縮はふつうは一方の側が他方より強く非対称的に始まり、首や体幹より四肢に強いことが多い。
PD様では、特に進行性核上性麻痺(PSP)では、固縮は両側同時に始まり、首や体幹につよく感じられ、“痛み”と表現されることはあまりない。
大脳基底核変性症(CBD)ではPDと同じように固縮は非対称的に始まり、一方の側に強く、四肢につよくみられる。

*振戦(ふるえ)=患者は腕をリラックスさせた状態で静止させたときに感じる。
 PDの静止時振戦はふつう非対称的にはじまる。静止時振戦があってそれが著明で、一方の側に強ければ明らかにPDに特有のものである。
PD様では静止時振戦はまれにしかみられない。
PD患者の20%では静止時振戦に加えて腕を伸ばしたとき(姿勢振戦)または腕を動かしたとき(動作時振戦)にも振戦がみられる。また姿勢振戦と動作時振戦の両方がみられることもある。PD患者で姿勢振戦のある患者の半数は姿勢振戦が静止時振戦よりさきにあらわれるために本態性振戦(ET)と間違われることがある。本態性振戦はPDの20倍の頻度でみられる。その約10%が治療を必要とする程度のものである。ETがPDになることもまれにある。この場合ETがPDに先立つものなのか同時に存在するものなのか現段階では不明である。

*寡動すなわち動作緩慢
PDの症状のひとつであり、またPD様のなかでも特にPSPと他系統萎縮症(MSA)にしばしばみられる。PDではメネシットやアゴニストが動作緩慢にも効く。PD様の場合、動作緩慢はメネシットにもアゴニストにも反応しない。これはPD様では脳内におきている変化がより高度で広範囲にわたるためである。

*歩行障害
PDの歩行障害は脚の動きが遅いのとバランス障害のせいでおきる。動きの遅いのに対してはメネシットとアゴニストは効果があるが姿勢障害には効果がない。PD様で歩行障害が起こると普通はバランス障害がより高度で早くから現れる。これはPD様の歩行障害がメネシットやアゴニストにあまり反応しないことによる。歩行障害から症状が始まるとPD様であることが多い。

★その他の症状の違い

PDやPD様には他の症状もある。これらの4つの症状の現れる時期(病気の初期か後期か)と4症状のわりにその他の症状がひどいかどうかということが時にはPDとPD様の鑑別にもなりうる。
4症状以外によくみられる症状は以下のものである。

1.痴呆

PD患者の30%が痴呆になる。これは普通PDの診断がついた後に起きる。70歳以上ではもっと頻度が高くなる。PSPやMSAでは痴呆の頻度はそれほど高くない。痴呆があるかないかがこれらの疾患の特徴なのか、それとも、単にPSPやMSAの患者の平均寿命がPD患者ほど長くないことに起因するのではないか(長く生きられないから痴呆にならないのか)はまだ分かっていない。
PDの痴呆はしばしば(常にではないが)レビー小体病(LBD)と呼ばれる。
脳の黒質の外側にある細胞内にレビー小体が見られるためである。痴呆の症状が先にあらわれ、その後でPDの症状があらわれてきた場合にレビー小体病とよばれる。レビー小体病とPDが同じ病気か異なる病気かについては意見の分かれるところである。痴呆が先でその後PDが現れた場合“パーキンソニズムを伴うアルツハイマー病”と呼ばれることもある。死後の病理検査でレビー小体病とアルツハイマーの違いがわかるが、生体では違いが良く分からないこともある。
痴呆を伴うPD,レビー小体病、パーキンソニズムを伴うアルツハイマーもPDプラスまたはPD様と呼ばれることがある。

2.眼球運動障害

 PD患者には眼球の運動障害がみられることがある。これはたいていPDの後期におきる。眼球の運動障害は診察時の検査ではっきりしないが、患者は字が読みにくいのでそれを自覚することがある。PSPでは眼球運動障害が早期にあらわれ、診察時の検査でもはっきりとわかる。PSPの患者のなかには眼球運動障害が眼球運動麻痺にすすむものもある。

3.嚥下障害

 晩期PDとPSPにみられる。MSAでは早期からみられる。これはものを飲み込むというような無意識に行われている動きを調節する自律神経系の障害されるためにおきる。

4.起立性低血圧すなわち立ったときの血圧低下

 これは後期のPDにみられるが障害ではなくメネシットやアゴニストなどの薬のせいでおきる。起立性低血圧はMSAでは早期にあらわれるが、この場合は薬とは関係なく病気そのものによる障害である。起立性低血圧も自律神経系の障害によっておきる。

5.排尿困難

 PDの後期におきる不快な症状であるが障害ではない。MSAでは早期にみられ、膀胱内を空にすることができなくなることがある。

以上よりPDとPD様は良く似た服を着ているためによく似て見える人のように考えられる。しかし実はそれぞれPDとは異なるものであり、またPD様に含まれる疾患同士もまたことなるものである。

●2004.09.07原稿担当● sophi

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