2003.07.01更新

脳深部刺激術(DBS)の体験記のトップへ

フランスから
パーキンソン病から解放された身体
A body liberated from Parkinson's
マイケル・ホールマン、脳の手術後12ヶ月の検査のためグルノーブルへ戻る
マイケル・ホールマン /著
フィナンシャル・タイムズ 2002年4月6日に掲載されました。
フィナンシャル・タイムズ社 http://timeoff.ft.com/weekend
この文の原文は
http://globalarchive.ft.com/globalarchive/article.html?
id=020406001872&query=body+liberated+from+Parkinson%27s


 私の新しい人生の始まりは、いき過ぎた部分もあったのだが、まずまずの滑りだしだった。
グルノーブル大学付属病院から宿への帰り道、私の手足はそれぞれ勝手に動き出し、力が入り、うめき声を上げたと同時に、私の左足が殆ど水平に上がり、左腕がぴんとそり立ち、筋肉が痙攣し、私はその場で回転してしまった。しかし、苦痛のためうなりながら私は安堵して大声で笑った。パーキンソン病の症状を軽くするために私が受けた脳の手術が成功だったということが改めて確信できたからだ。

3ヶ月前(2001年の2月)押えようのない震え、顔のこわばり、歩行中に動けなくなるといった症状を起こす16年間の脳の状態に疲れ果てて、グルノーブルに着いた。
大学付属病院のアランールイ・ベナビッド教授とピエール・ポーラック教授により開発された手術が私に残された唯一の希望だった。
手術台の上で11時間(通常より2時間短い)意識のあるまま横たわった後、私は輝かしい幸福感に包まれた。

 私は生まれ変わったと感じながら手術室を出た。
 ジスキネジアという身をくねらせる不随意運動は、脳内でドーパミンという化学物質に変換する薬を長年飲み続けると出てくるやっかいな副作用であるが、そのジスキネジアが出なくなった。震えもほとんどなくなった。10年ぶりに初めて一晩中ぐっすり眠れた。筋肉の痛みももはや感じなくなった。
 鎖骨の下に発信機を埋め込み、皮膚の下にコードをはわせ、私の脳の深部に埋めこまれた2つの電極につなぐという治療の最終段階の手術が、そのすぐに行われた。
 手術後3ヶ月の最初の検査は5月にあった。ポーラック教授と、彼の同僚であるポルトガルから6ヶ月の任期で来ているマンデス医師が検査、調整を担当した。その時、電極の電圧を上げすぎて、ドーパミンを飲みすぎた時と同じような状態になってしまったので、その日の午後烈しいジスキネジァがおこり、電圧を下げてもらうために急遽病院に戻った。マンデス医師は、顔を輝かせて「ジスキネジアが出たのはいい兆候ですよ」と何度も言い続けた。
私は方々に旅行をし始め、フィナンシャル・タイムズのアフリカ編集主任というポストにもどった。しかしさらにもう一度検査する事になった。検査の必要性を次第に強く感じるようになっていったからだ。右手のふるえが、そんなにひどくはないが、特にストレスがかかったとき又現れるようになったこと。さらにパーキンソン病が原因であると思われる疲労感を比較的軽度ではあるが早朝に又感じるようになったこと。
そして先月、手術の1年後、私が生まれかわった街へ戻った。私は、手術から病室へ戻ったときもらったココアの味と病院のカフェで出されるコーヒーのおいしさ、ヨーグルトの味を鮮明に覚えている。病院のスタッフの思い遣り、と腕のよさ、友人の慰めと励まし、そして『脳の音を聞きながら』味わったスリルも思い出した。とりわけ一日中かかった手術の後ボルトで留められていたケージから私の頭が引っ張り出された時の素晴らしい解放感は忘れられない。
今、脳の刺激によって誘発される症状でもある過度の幸福感はおさまった。ジスキネジァも少なくなった。筋肉のうずきと痛みは過去のものとなった。夜もよく眠れる。疲労感はなくなった。震えは残っているが、タイプを打つのに支障のない程軽いものである。手術前にはカプセル状のものも含めて5種類の薬を36錠も飲んでいたのに比べて、今はただ一種類だけ飲んでいる。レクィップという薬だ。1日量が6錠になった。電圧が少し上げられた。
手術でパーキンソン病が治るわけではない。私は50代半ばの"健康な"人の85%の能力だと思う。いい日と悪い日がある。しかし、1年目の検査の日、手術前に私がどういう状態だったか思い出された。これ以上簡単ではっきりしたことはない。
 医師が胸に埋め込んだ乾電池式の発信機は私の微調整担当の医師によってボタン一つでスイッチが切られる。すると数秒でふるえがおこり、どんどんひどくなる。2−3分後には救いようもなくブルブルふるえ、バタバタと動き出すし、ボタンをもう一度押すとふるえのない状態にもどるのだ。
パーキンソン病患者のすべてにこの治療法が適しているとは言えないが、適している患者にとってはメリットは十分で異論の余地のないものである。10年前に最初の手術が行われ、グルノーブルでは約200症例の手術が行われ、患者への貢献を続けている。
手術は効果があるだけではなく、採算もとれる。手術の費用は高いが、私の場合2−3年で出費は取り戻せる。私が服用していた薬は英国国民健康保険にとって、一年で2000ポンドという高い出費となっていた。さらに手術をして、税金を使う側でなく、逆に納税者であり続けることができる。
イギリスでもいくつかの病院で手術が行われているにもかかわらず、手術は国民健康保険では支払ができない。
結果としてイギリスは他のヨーロッパ諸国に後れを取っていることになる。12万人のパーキンソン病の患者のうち、5人に一人は手術が効果的である。イギリスでは手術が有効と思われる患者のうち脳深部刺激術を受けているものは20人に一人に満たない数である。スイスでは3人に一人が手術を受けている。
この数字をもとにして、準備金を無駄にしているイギリス医療制度と、遅まきながら手術の劇的な効果を認めるに至った英国パーキンソン病協会に対して訴訟をおこしてもおかしくないほどだ。
しかし、この状況は変わりつつあるようだ。350万ポンドの目標額の募金活動が行なわれており、そのうちの150万ポンドは既に委託されている。募金はスエーデンのウーメオ市のマラワン・ハルツ教授によって指導されているスエーデンの医療チームを支援するもので、最初の手術は10月に予定されている。支部がクイーン・スクエアのロンドン国立病院の神経科、神経外科に置かれている。
イギリスでもようやく重い腰を上げた。



●募金先は下記のとおりです。
The Parkinson's Appeal for the Brain Research Trust
59 Warwick Square
London SW1V 2AL.
tel: +44(0)20-7233 6034
e-mail:parkinsonappeal@aol.com
● 小切手の宛て先は Brain Research Trust
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マイケル・ホールマ−ンのメールアドレス: brokesley@aol.com

マイケル・ホールマンの手術の報告『脳の音を聞きながら』は
フィナンシャル・タイムズのウイークエンド版(2001年3月31日、4月1日)に掲載されました。
●原稿担当●ISOISO 2002.4.26作成

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