若年発症のパーキンソン病について

by Sophia

 パーキンソン病(PDと略す)は高齢者に多く発病し、わが国ではだいたい人口10万人に100人と言われている。40歳前に発病したPDを若年性PDとよぶが、PD患者全体の5%〜10%といわれるのでおよそ人口1万人に0.5〜1人の割合になり、総数は国内で5000人〜1万人くらいかと思われる。しかし、若年患者を地域のなかで目にすることは少ない。
 「40歳までに発症し、現年齢50歳代までのPD患者」という秋山智先生の提案に沿って、若年患者の特徴や問題をまとめてみた。40歳までに発症したものには、遺伝が関係することが多い若年性パーキンソニズム(いわゆるAR-JP=常染色体性劣性遺伝性若年性パーキンソニズム)のほかに、老齢発症PDがたまたま若年で発症したものも含まれ、この2つのタイプは遺伝子が関与すること以外にも発症年齢、進行の早さ、薬の効き方など症状において違いがある。後者の症状は老齢発症のPDに近い。

AR-JP(主にパーキン遺伝子の変異によるタイプ)の特徴はつぎのようである。

1)L-ドーパがよく効く
2)L-ドーパに対する反応性が長期間維持される
3)病気の進行がゆっくりで遅い
4)ジスキネジア(不随意運動)が出やすい
5)睡眠効果がはっきりしている
6)自律神経症状や精神症状の頻度が高い
7)認知障害は一般に認めない

 下でこれら以外に取り上げたものは、40歳以下という発病年齢ゆえの特徴や問題といえる。
老年発症のPDについても遺伝子の異常が見つかっており、今後研究が進めば若年発症や老年発症という言い方ではなく、遺伝子のタイプによって分類されるようになるかもしれない。

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1. 発症時期について

 早い人では10歳台に発病、20歳台、30歳台の順に多くなる。10歳台〜20歳台の発症は兄弟発症が多く、遺伝子検査でパーキン遺伝子の異常が認められることが多い。若年発症に関与する遺伝子は他にもいくつかある。患者の遺伝子検査と症状を分析研究することにより、PDの原因解明及び治療法の開発につながる可能性がある。(若年患者の遺伝子検査は順天堂病院脳神経内科で受けることができ、特に家系内にPD患者がいる場合には治療と研究の両面から受診をお勧めする。若年発症ではなく老齢発症であっても家系内にPD患者がいる場合は、弧発性(普通の老齢発症)PDとは症状や経過が多少違うようであり、遺伝子検索により新しい遺伝子が見つかる可能性がある。)
 初発症状としては一側の手や足の振るえ、または歩行障害から始まることが多い。若年発症の場合、若年であるため医師(神経内科医以外の医師の場合)がPDという診断名を頭に浮かべないせいか、診断がつかないまま数年間あちこちの病院を渡り歩くことも多い。そのため治療方針が決まらないままに長年経過し、PDの診断がついたときホッとしたと言う話も聞く。またふるえだけが目立つ場合には本態性振戦と診断されることもある。
 女性の若年患者では、遺伝的要因にさらに妊娠・出産、ストレスなどが加わって発症することもあるような印象をうける。
 PDの4大症状としてはふるえ、筋固縮、姿勢反射障害、無動が典型的であるが、最近では自律神経系の症状や精神症状も注目されるようになってきた。
 現在のところPDが完治するような治療法、または発病を防ぐ方法、進行を抑える方法として確立されたものはなく、治療方法は不足しているドパミンを補うこと(ドパミン補充療法)である。薬はだいたい一生飲み続けなければならない。
 治療薬が進歩したために、PD患者の寿命は普通の人の平均寿命とそれほど変わらなくなったと言われる。ということは以前よりも長く病気と付き合っていかなければならないということであり、40歳以下で発症すれば普通に考えれば30年以上病気とともに生きるわけで、その間にいろいろな問題が起きてくることは十分察知できる。

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2. PD治療薬によく反応する

 若年の中でもAR-JPの患者は一般にPD治療薬がよく効く。日本神経学会のガイドラインでは65歳以下はドーパミンアゴニストで治療を開始するように書かれているので、若年患者で病歴の短い人の多くはドーパミンアゴニストで治療を開始していると思う。ちなみに最初のドーパミンアゴニスト(パーロデル)が使われるようになったのは1974年ころである。その後進行の程度と症状と日常生活PDのQOLを考慮して内服薬が追加変更され、L−ドーパの内服にいたるのが普通である。治療薬(なかでもL-ドーパ)を内服すると急に身体が軽くなって、ほとんど病気でないかのように(まるで治ったかのごとく)症状が改善する。しかし、L-ドーパ内服開始数年経つと薬の効いている時間(オン)と効いていない時間(オフ)がでてきて(ウェアリング・オフ)、一日のうちでも動けたり動けなかったりと症状の変動がおきるようになって、オンとオフのひどい違いを周囲の人や家族に理解してもらえないことが多い。
 また、薬の量が必要量より多すぎた場合にはジスキネジア(不随意運動)がおきやすい。これはL-ドーパの副作用であるが、ひどい場合には薬が効けばジスキネジア、切れると全く動けないという両極端の状況を1日に何回も行き来し、ちょうどいいくらいに薬を効かせ1日をだいたいいい状態で過ごすための調整にはとても苦労する。病歴が長くなればなるほど薬のほんのわずかの量で症状に違いが出てくるので”さじ加減”というより ”耳掻き加減”というくらいの微妙な調整をしている。
 オンのときには病気の症状もほとんど消えて表情も気持ちも明るく,積極的に考えることもできるが、オフになると全体に暗くなり、ものごとを悲観的に考えるようになり、無表情で言葉数も少なくなるので全く別人であるかのように見られることがある。 この違いが健康人にはなかなか理解されず、気分の移り変わりが激しいように見られたり、我儘で自分の都合のいいように行動しているかのように思われたり、いろいろ誤解されることもある。
 また、ジスキネジアは自分の意思とは無関係に手足がぐにゃぐにゃと動いてしまう症状で、他人からみるといかにもひどそうにみえる。実際に、ジスキネジアがひどいときには汗がとても多くなり、息遣いはあらくなり、余分な動きのために疲れ、また腰痛がでたりするので患者自身も辛い。が、それほどひどくないジスキネジアの場合は、むしろ薬が十分に効いているという安心感があったりして、本人も苦痛とは思わず、周囲の人が心配するほどには気にしていないこともある。
 治療薬にもいろいろ違った作用機序のくすりがあり、患者は一人一人症状も違い、薬の効き方も違うので、風邪薬のように1日3回食後内服という飲み方で1日を快適に過ごせる人は少ない。それぞれが薬の種類と症状により、内服の時間と量などを微妙に調整しているのが実情である。これがオーダーメイドの治療と言われる所以である。
 主治医と長く付き合わなければならないだけでなく、診察時間内だけでは1日の身体の動きを理解してもらえないので医師と患者の密なコミュニケーションが必要である。

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3. 病気の進行が遅い

 AR-JPは老年発症のPDに比べて病気の進行が遅いといわれる。若年患者といってもAR-JPでない場合は老齢発症のPDとよく似た経過をとるので、若年PDのすべてが進行が遅いというわけにはいかないが、少なくともパーキンが関与するタイプでは進行がゆっくりで、急激に病状が悪化することはまずない。
 また、高齢者のPDでは認知障害の合併率がかなり高いが、若年発症のPDでは認知障害はあまりないといわれている。
 また、若年発症の一つの特徴として睡眠効果というのがあり、朝起きたときまたは昼寝から覚めたときなどに症状が改善するのを早くから患者自身が気づいていることが多い。
 進行は遅いが少しずつ進行しているのは確かで、その時々の症状に対して対処方法を模索しつつ生活しているのが若年患者の現状である。

 たとえば“すくみ足”に対して、若年患者の場合は社会的立場上、すくむようになったから外出をしないで済ませるということはできない。仕事や家事その他を考えるとなんとかすくみ足を克服して日常生活をもう少しよくできないかと考える。“すくみ足”は患者でなければ理解できない症状といってもいいくらい複雑で、健康な人にわかってほしいと説明しようとしてもなかなか難しい。すくみ足は 「薬の効き具合」「心理的な緊張や不安」「視野にはいってきたもの」「他人の視線」「過去の失敗のトラウマ」「からだのバランスの問題」「足の運び方」、その他じつに様々な要素が複雑に絡み合った症状といえる。これらを自分なりに分析し、考え、どうしたらうまく歩けるか日々挑戦している患者もいる。
 また、内服薬の効き方も日によって違い、良い状態を保つため毎日がよりよい方法を求めて試行錯誤の連続といえる。

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4. 内服治療について

 PD治療薬には何種類かの薬があるが、若年患者の多くはL-ドーパとドーパミンアゴニストを主体とし、その他いくつかの薬を加えて処方されている。1日を十分に活用しようとするときオフの時間をできるだけ少なくしたいと患者は考える。
 1日の総量を変えず、1回の量を少なくして回数を多くするなど、飲み方を工夫することでいくらか対処することが可能である。
 ドパミンの代謝過程を阻害する薬など新しい作用機序の薬が増えたことで、薬の処方・飲み方が複雑になり、一旦うまく行かなくなると修正するのに苦労することが多い。
 内服の基本となるのはL-ドーパであるが、PD治療ガイドラインが発表され、病初期にはドーパミンアゴニストの使用が勧められた結果、神経内科医の中にはL-ドーパの開始をできるだけ遅くし量もできるだけ少なく患者は動きが悪くても我慢すべきだという方針の医師もいるようである。
 L-ドーパはすでに30年以上の歴史を持つ薬で、最近の研究結果からもL-ドーパがPDの進行を早めることはないことが明らかになり、またL-ドーパが5年で効かなくなるというような一部の風評もあるようだが、若年患者には当てはまらず、また老齢患者においてもPDであればそんなに早く効かなくなるとは思えない。実際に発病して40年近くになる若年発症の患者で今なおL-ドーパがよく効いている。
 若年患者にとっては、活動を必要とする時期にL-ドーパを適量内服しADLを高めておくことも必要であろう。若年患者が現在の一日を十分意味のある一日とすることなしに将来に希望をつないでも無意味で、進行性の病気であるからには今を大事に生きることが第一だと思う。この点については主治医と十分に納得の行くまで治療方針を話し合うことが必要と思われる。

 PD患者においては内服薬の効果が日常生活のいろいろな要因で変化しやすい。老齢患者でも当てはまることであるが、薬で症状をうまくコントロールしようとするとき以下のことが参考になるかもしれない。

a. 薬の飲み方の工夫

薬の1日量は主治医の処方を守ることは大切であるが、その上でL-ドーパの1回の量と内服時間、内服方法をほんの少し変えてみることによりオフの時間を短くしたり、ジスキネジアをあまりでないように工夫することができる。

b. 薬についての基礎知識

PD治療薬の効果はL-ドーパがもっとも強い 。ドーパミンアゴニストは ゆっくりと効いてきてゆっくりと切れ、ドーパミンアゴニストだけでL-ドーパと同じくらいの効果を得ようとするとかなりの量を必要とする。
エフピーやコムタンはドパミンが分解される過程を阻害するように働くので、結果的にL-ドーパの効きがよくなり、効果の持続時間が延びる。そのために人によってはジスキネジアが出やすくなる可能性がある。
ドーパミンアゴニストやエフピーは内服を開始してから安定した効果が得られるようになるまでに数週間かかる。また内服を中止してもその薬の影響が消えるまでにやはり数週間かかる。薬の追加変更の際にはこのことを十分に頭に入れておかなければいけない。

c. L-ドーパを飲む際のちょっとしたヒント

 このように薬の効果はいろいろな要因で変化を受けやすい。自分の内服方法を調整としようとするときには毎日の起床時間、就寝時間、食事の時間、食事の量、運動量をだいたい一定にしたうえでL-ドーパの量を多少加減してみる。
できるだけ脳内のドパミンの量の変化を少なくするために、1回の内服量を少し少なめにして内服の回数を増やすというやり方がある。こうすることによって、ジスキネジアを少なくし、オフが頻繁に出現する状態を解決できるかもしれない。

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5.運動症状以外の症状

 PDはふるえやジスキネジア、歩行障害などの運動症状がまず目に付くので、その他の症状が見逃されてしまいがちであるが、実はほぼ全身の病気と言ってもいいくらいに多彩な症状が現れる。AR−JPの患者では自律神経症状や精神症状などの現れる頻度が高いといわれる。

a.自律神経症状

b.精神症状

 PD患者の睡眠障害についてはいろいろ言われているが、寝言やREM期(頭が起きていて身体が眠っている睡眠の状態)行動異常といわれる入眠時の暴力的行為、などのほかPD治療薬なかでも非麦角系アゴニスト(ドミン、ビシフロール、レキップ)による睡眠発作が問題となる。これは眠気を感じる間もなく突然発作的に寝入ってしまうもので、車を運転する患者には十分注意すべきことである。

 若年患者にとって自動車は移動手段としてまた社会生活をする上で重要な道具であることは明らかである。まして歩行障害が現れてくると自分で運転できることの便利さを痛感する。しかしPD患者の場合、ふるえやジスキネジアのような身体症状がでていないときでも眼球運動の遅れ、反射的な判断とそれに続く動作の遅れ、などがあるとされ、運転については十分な注意が必要であり、多少でも危険を感じるようになったら運転をあきらめる勇気も必要である。

 また薬の副作用ではあるが、ドパミン調節障害として精神症状や行動障害が最近問題とされている。若年患者はドパミン製剤を飲む期間が長いこと、社会生活を送る上で十分なADLを必要とするため薬がやや多めになりやすいこと、数種類の薬を組み合わせて飲むことなどから調節障害がおきやすい。
 その症状としては病的賭博、摂食障害、性欲亢進など若年患者の生活上かなり深刻な影響を与えうるものがある。なかでもパチンコなどの病的賭博が問題で、若年患者にとってパチンコは動かずに黙々と没頭することができ、適度の興奮が得られ、時によっては報酬も得られる事もある、うってつけのギャンブルと言える。問題はそれに時間とお金を費やし、家計及び日常生活の破綻にまでつながりかねないことである。

 また、PD治療薬の副作用と思われる幻覚・妄想も若年患者を悩ませる。薬の複雑な調整をしている若年患者にとって幻覚・妄想が現れたときには薬の減量は必至で、それはPD症状の増悪につながり、日常生活を制限されることになる。また妄想は被害妄想が多く、特に仕事や家庭での人間関係のストレスに端を発していることが多いように思われる。精神症状が現れた場合には多くの場合入院治療が必要となり、入院期間もある程度長くなることが多いので若年患者にとっては大きな問題である。

c. 感覚障害

 病気が進行するにつれて動作が遅くなり、薬の効かない時間が出てくるため限られた時間で仕事を仕上げることができなくなる。それに入眠障害が加わってつい夜更かしをしたりして、睡眠時間がずれてきたり、短くなったりする。脳内のドパミンが睡眠中に作られること、また睡眠不足は薬の効きを悪くするなど、毎日を調子よく過ごすために睡眠薬の力を借りてでも毎日ちゃんと睡眠をとることが必要である

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6.リハビリの必要性

 最近、PD患者に早期からのリハビリが大事だと言われるようになった。若年患者にもやはりリハビリが必要であるが、現在のところ若年患者向けのリハビリについての整備がまだ不完全と思われる。
 各自が自分なりに、ウォーキング、ストレッチ、体操、ヨガ、太極拳、水泳その他をやっているが、現在のパーキンソン体操は老齢患者向けのように思われる。またリハビリの施設もデイサービスで老齢者と一緒だったりして、若年患者には物足りない。老年患者よりもまだ筋肉その他の運動機能が残っていると思うので、それらをいかし、しかもある程度楽しめるようなリハビリ方法があるといいかと思われる。

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7.遺伝について

 若年で発病した患者には家族内発症の率が高く、遺伝子の変異を認め、AR-JP(常染色体劣性遺伝性若年性パーキンソニズム)といわれるものが多い。
 パーキン遺伝子の変異によるものが劣性遺伝性PDの約50%を占め、他にPINK1によるものもある。
 20歳代での発症は少なく、その上結婚・妊娠・出産となると経験者は非常に少ない。遺伝がからんでいるため子供のことを考えると結婚に踏み切れなかったり、相手に迷惑がかかるかもしれないなどという気持ちで自分から身を引いてしまう場合や、将来を理由に周囲から結婚に反対される場合もある。
 さらに妊娠・出産の当事者は若い女性で、経験者に話を聞こうと思ってもまず見つからない。神経内科医としてもこれを経験したことがあるのはごくごくわずかであろう。妊娠の際に薬のことがまず問題になるが、内服を全部やめた状態で10ヶ月間過ごすのはまず無理である。生活するうえで最低限の内服にしても子供への影響について不安は残る。さらに出産後の育児についても家族の理解と協力なしにはまず無理である。薬の力を借りて身体を動ける状態にしている患者にとって、時を問わず待ったなしの育児はとてもつらいものがある。
 また、若年患者に限らず子供が将来発症するのではないかという不安感はいつもつきまとう。劣性遺伝であれば自分の配偶者が同じ遺伝子の異常を持たない限り(子供は保因者ではあるが)発症に至る可能性はまずないといえる。
さらに子供の結婚に際しても、子供の選んだ人がPDの遺伝子をもたない限り孫に発病する心配はないと考えられる。

 若年患者特にAR-JPの患者の遺伝子検索が、PDの原因解明ひいてはPDの治癒、進行阻止につながる可能性を秘めている。
 若年患者が自分の症状をできるだけ客観的に観察し、それを主治医に知らせていくことにより、PDの新しい一面が見えてくる可能性もあることを患者自身も自覚し、また神経内科医および医療に携わる人たちも患者の訴えに真摯に耳を貸していただくことを切に希望する。

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2008年2月

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